要は一見客にとって非常に取っ付きにくい店ではあるが、魚料理のメニューも豊富だし、店の流儀さえ理解できれば再び足を運びたくなる店だと個人的には思える。
逆にファミレスやハンバーガーショップのようなステレオタイプの接客がなければ不満を口にする向きは、店の敷居を二度と跨がないことだろう。
でも、こうした“幼稚”な客が寄り付かないだけ、酒と魚を味わいたい身には居心地が良かったりする。
現に二本目の剣菱を注文した後、小母さんの態度が軟化したようにも見えたし…多少酔っ払っていたせいかも知れないが。
それに、大々的に宣伝しても品切れでありつけない「新・ご当地グルメ」よりは、ツッケンドンな接客でも美味い魚料理を食べられるほうがよほど有難い。
「有香」を出て、館山駅へ。
しかし次の東京行き電車まで、まだだいぶ時間がある。
そこで西口から一直線に伸びる大通りを海まで歩いてみた。
堤防に腰掛け、夜の海を眺める。
風もなく海面は静かで、対岸の光彩が遠くで瞬いている。
大人しく打ち寄せる波を見ながら、巡礼してきた一之宮の数々を思い返してみる。
結構な数を巡ってきたように思えたが、まだ旅は実際のところ始まったばかりなのだ。
電車の発車時刻が近づいてきたので駅へ戻る。
上空を見上げると、丸い月がポッカリと浮かんでいた。
「次は、いつ出かけようかな?」
そんなことを思いながら、駅の階段を上った。
[旅行日:2013年5月21日]