諏訪下春30*

コンクリート製の橋を渡ると「おんばしら館よいさ」という看板が見えた。

右に曲がると少し先、公衆トイレの向こう側に真新しい建物が立っている。

平成28(2016)年4月25日にオープンしたばかりの、御柱祭に関する観光施設だ。

御柱祭は7年に一度、十二支の寅と申の年に行なわれる諏訪大社最大の祭礼で、正式な名称は「諏訪大社 式年造営御柱大祭」と呼ぶ。

ちなみに「日本三大奇祭」のひとつとも言われているが、世に奇妙なお祭りは結構あり3つに収まるわけはないので、これはアテにならないだろう。

中に入るとロビーに御柱がたどる経路を説明した巨大な模型がお出迎え。

山奥で伐採されてから山出し、里曳きを経て各宮へ至るルートが記されている。

御柱祭は上社と下社それぞれ独立しており、実施日も伐採地も里引きのルートも全く別々。

つまり上社と下社で年に2回あるということだ。

次の間は祭の模様を大画面で紹介するシアタールーム。

祭の一部始終を追った10分ほどの映像を、椅子に腰掛けて見る。

テレビのニュースでは「木落し」の部分だけを切り取って“奇祭”っぷりをフレームアップする映像ばかり。

だが、こうして全体をまとめた映像に接すると、御柱祭に対する概念が更新される思いがする。

また、このブースには御柱祭の様々なシーンを再現したジオラマも展示されている。

御柱祭は山奥で選び抜かれた樹齢150年を超える樅[もみ]の木の伐採からスタート。

下社の場合は伐採後、下諏訪町大平の山腹にある「山出し」の開始地点「棚木場」で一年間、御柱を「醸成」させる。

山から里へ送り出す「山出し」が4月、各神社までの道中を曳行する「里曳き」が5月。

4社×4本、計16本の巨大な御柱を、氏子衆が地区ごとに別れて曳いていく。そして御柱を各社殿の四隅に聳立させる「建て御柱」という手順を踏む。

実際には、その後に行われる御宝殿の造り替えも含めて「御柱祭」であり、長い期間をかけて行われるのだ。

大勢の氏子が御柱に乗って急な崖を滑り落ちる「木落し」は、棚木場から約3km地点の「木落し坂」にて行われる。

あくまでも「山出し」の一部であり、ここだけを切り取って単なる“奇祭”とレッテル貼りするのは誤った認識なのだ。

とはいえ木落しが最大のハイライトであることにも違いはなく、それを体験できるブースが次の間に用意されている。

実際の御柱を忠実に象ったFRP製の模擬御柱に乗り、実際に滑り落ちていく映像が映し出される前方のスクリーンを見ながら、華乗(柱に乗る人)目線で木落坂を下る躍動感が体験できる大掛かりな装置。

ただ、入館料とは別に体験料が必要とのことで、今回は冷やかして終わり。

[旅行日:2016年12月12日]