諏訪下秋25

坂を登り切ると眼前に一本の巨大な杉が聳立している。

「ネイリの杉」と呼ばれる、樹齢600~700年と伝わる御神木。

名の由来は、挿し木に根が生えた杉なので「根入りの杉」…なのだが。

丑三つ時(超ド深夜)になると枝先が垂れ下がり寝入った姿に見え、しかもイビキまで聞こえてくるので「寝入りの杉」だという説もある。

どちらが本当かは知る由もないが、この木の小枝を煎じて子供に飲ませると夜泣きが止む…と伝承されている。

ネイリの杉の先で待ち構えてるのは神楽殿。

三方切妻造りで、軒先には巨大な注連縄が吊るされている。

諏訪立川流二代目和四郎富昌の設計で、完成は天保6(1835)年。

富昌54歳の棟梁で、渋めな意匠は初代である父の立川和四郎富棟が建てた幣拝殿の華麗さと対照的。

だが、その地味なデザインが幣拝殿を際立たせているかのようだ。

諏訪立川流は神社仏閣など楼閣建築を装飾する伝統彫刻「宮彫[みやぼり]」の代表的流派。

二代目である富昌は持って生まれた天賦の才能に加え、父から授かった技能と異常ともいえる努力をミクスチャーし、宮彫の最高峰を極めた。

寛政の改革で有名な徳川幕府の老中松平定信は富昌を特に高く評価。

「内匠[たくみ]」の称号を許された富昌は幕府御用達となり、日本一の宮彫師となった。

諏訪下秋027

神楽殿の前には狛犬。

高さが1m70cmもあり、青銅製では日本一とも言われている。

芸術院会員だった清水多嘉示が昭和5(1930)年に奉納したものが初代。

第二次大戦時に供出され、昭和35(1960)年に再び清水の手で復元されたのが現在の二代目だ。

神楽殿に張られた巨大な注連縄は氏子有志による大〆縄奉献会が出雲から職人を呼んで作らせたという逸品。

大国主神の息子である建御名方神が祭神だけあって、出雲大社の注連縄と形状が良く似ている。

重さは推定500kgほどあり、全長13mは出雲大社型の注連縄では日本一の長さを誇るそうだ。

諏訪下秋27

[旅行日:2016年12月12日]