水無35-031

楼門の向こう側、左手すぐのところに巨大な老木が立っている。

推定樹齢およそ800年という銀杏[いちょう]の大木だ。

落雷によって上部が欠損しているが、折れた場所から若枝が繁茂。

櫟[いちい]などの宿り木を抱え、もう何の木やら分からないほどの枝ぶりだ。

枝からは銀杏特有の乳[ちち]が垂れ、その姿は優しげな母親の面影を連想させる。

そのせいか古くから子授け、安産、縁結びに霊感あらたかな御神木として信仰されているという。

樹齢800年といえば西暦1200年頃から、この地に根を張っていることになる。

大原騒動の顛末はもちろん、鎌倉時代の神仏習合の頃から水無神社の歴史を見守ってきたのだろう。

余談だが、銀杏の乳は女性の乳房に見立てたもの。

ここだけではなく全国各地の神社で銀杏の乳が同様の信仰を集めている。

ちなみに銀杏の乳は英語でも「ChiChi」というそうだ。

水無36-034

楼門の前を離れ、再び鳥居の方を眺める。

乳白色の雲が空一面を覆い、時折り舞い散る小雪の彼方には、幾重にも連なる飛騨の山並み。

苦難に満ちた江戸時代を思えば、世界中から観光客が押し寄せる現代の飛騨地方は隔世の感がある。

水無神社が飛驒国一之宮に比定されたのは、実は明治維新以降のこと。

実は、どの神社が飛騨国の一之宮なのか記した江戸時代以前の史料が散逸しているため。

明治政府による神仏判然令により、数多くの仏像や仏教関係の古文書などが“廃仏毀釈”された。

[旅行日:2016年12月11日]