本丁を東に行き当たると鍵形になった十字路に出る。
一見すると最近の都市計画で偶然生まれた交差点のようにも思えるが、町の入り口にあたる西端にあり寺町とも隣接していることから、城下町の構造として誕生した往時から整備されていたのではないか?
それと、ここは裏丁と寺町、天神坂がクロスする交差点。
真ん中に立てば天神様、お釈迦様、イエス様を一同に拝むことができる
生まれたら神社へお宮参りに行き、結婚したら教会で式を挙げ、死ねばお寺でお葬式。
まさに日本ならではの宗教的「三位一体」観を具現化した交差点と言えよう。
交差点の角、寺町の坂を上りきったところに十字架を高々と掲げた教会が立っている。
昭和28(1953)年に開かれた「杵築カトリック教会」。
教会とはいえ門は瓦屋根の和風建築、まるで武家屋敷のよう。
建物も衒いのない白壁で過剰な装飾も施されておらず、まことにシンプルだ。
門が開いていたので中に入ってみる。
広い庭は丁寧に整備され、桜の木々は満開の花で彩られている。
庭の中央に巨石を組み合わせたモニュメントが築かれ、その中央にはマリア像。
ここがカトリックの教会であることを静謐に主張しているかのよう。
ちなみに「ひとつ屋の坂」にあった杵築教会はプロテスタントの教会である。
教会から寺町通りの坂を下っていくと最初にあるのが養徳寺。
能見松平家の菩提寺で、通りから山門まで参道の両脇に聳える杉並木が美しい。
この寺は映画「男はつらいよ」第30作「花も嵐も寅次郎」のロケに使用されている。
沢田研二演じる三郎が亡くなった母を供養する…というシーン。
マドンナ役を演じた田中裕子は本作での共演が縁で、実生活で沢田と結婚している。
養徳寺、意外と「縁結び」な寺なのかも知れない。
境内には杵築松平藩六代藩主親貞[ちかさだ]と、同七代藩主親賢[ちかかた]の墓がある。
境内は土塀の漆喰が所々落剥して黄土色の土が露出し、ほどよい寂れ感を醸し出している。
藩主が眠る霊廟にピッカピカの過剰な装飾は似合わない。
養徳寺の隣にある正覚寺には、全国的にも珍しい鉄製の大仏が鎮座している。
この大仏、名を「鉄鋳盧遮那仏坐像[てっちゅうるしゃなぶつざぞう]」という。
延享元(1744)年に府内(現在の大分市)で作られたもの。
現在、市の有形文化財に指定されている。
門をくぐり境内に入ると、左手にこじんまりとした仏殿があった。
正面奥に大仏が鎮座し、両側に鉄製の小さな仏像が幾つも並んでいる。
確かに鉄の大仏を見たのは初めてかも知れない。
ただ、全体的に赤錆が浮き、大仏というより赤鬼っぽく見える。
よほどこまめに手入れしなければ、アッという間に錆び落ちてしまうだろう。 鉄で大仏を作るのは現実的ではないのかも知れない。
正覚寺の2つ隣に安住寺という古い禅寺がある。
鎌倉時代の正元元(1259)年、木付氏初代の親重が創建した。
代々の菩提寺となっていたが、木付氏滅亡とともに極度に衰微。
一時は消滅しかけたところ、能見松平氏が再興した。
ここには県内最古の梵鐘がある。
鋳造は文和2(1353)年というから優に650年は超えている。
総高100.4cm、胴部周囲152cmと堂々たる梵鐘。
大分県の有形文化財に指定されている。
[旅行日:2016年4月12日]