4t下鴨020

表参道の左側、馬場との間に「瀬見の小川」という名の細いせせらぎが流れている。

名付け親は賀茂建角身命だと山城国風土記逸文には記されているそうだ。

また、風土記には賀茂社の創建にまつわる重要な逸話がある。

いわゆる「丹塗矢[にぬりや]」の伝説だ。

玉依姫命が瀬見の小川で水遊びをしていると上流から綺麗な朱色の矢が流れてきた。

これを拾い上げた玉依姫命が寝床の近くに挿して飾っておいたところ、なぜか懐妊。

その矢、実は火雷神[ほのいかずちのかみ]の化身だったのだ。

火雷神は亡くなった伊弉冉尊[いざなみのみこと]が黄泉国で産んだ、雷を司る神。

そして生まれてきた男子は賀茂別雷命[かもわけいかずちのみこと]、賀茂別雷(上賀茂)神社の祭神である。

ところでこの逸話、どこかで聞いたことがあると思ったら古事記の中に似たような話があった。

大和国橿原で神倭伊波禮毘古命[かむやまといわれひこのみこと]が初代神武天皇として即位した時のこと。

大后候補を探していたところ、神の御子と言われている富登多多良伊須須岐比売[ほとたたらいすすきひめ]の噂を聞いた。

伊須須岐比売は大和国一之宮大神神社の祭神大物主神が、勢夜陀多良比売[せやだたらひめ]という美女に産ませた娘である。

勢夜陀多良比売の余りの美しさに恋い焦がれた大物主神は自身の姿を丹塗矢に変え、彼女が厠に入ったところを見計らって下から陰部[ほと]を突き上げるという荒技を繰り出した。

驚いた比売はオロオロし、右へ左へ走り回って大騒ぎ。

その丹塗矢を持ち帰って床に置いたところ、あら不思議。

丹塗矢はパッと偉丈夫の色男に変身し、やがて比売を妻に娶ることに。

偉丈夫たる大物主神と勢夜陀多良比売の間に生まれたのが伊須須岐比売であり、初代神武天皇とともに世を治める大后となったわけだ。

古事記と山城国風土記、それぞれ登場する神こそ違えど設定は大いに似通っているのが面白い。

しかも両記とも成立はほぼ同時期なので、どちらがどちらを真似したという話でもなさそうだ。

昔から伝承されていた説話を雛形にして、両記それぞれが独自に取り込んだのかも知れない。

[旅行日:2014年3月20日]