鳥居の向こう側には田圃が三反ほど広がる。
御料田の周囲も一面の田圃なのだが、その境は柵で仕切られている。
御料田の敷地には隅に「神宮」と掘られた石杭が打たれ、ここが伊勢神宮の御神域であることを世に知らしめている。
鳥居をくぐって御料田に近づいてみる。
まだ田起こしも行われていない冬眠中の御料田は、春の訪れを告げる祭りの到来をひっそりと待っているかのよう。
鳥居の隣に立つ「磯部の御神田」の式次第によると、まず11時20分ごろから「竹取神事」が行われる。
御料田の西端に立つ杭に高さ10メートルはあろうかという太い青竹が縛り付けられ、その先端に「ゴンバウチワ」という巨大な団扇が括り付けられている。
その青竹が杭から解かれ御料田に向かって倒されると、大勢の男衆が褌姿でゴンバウチワを奪い合うという、とてもマスキュランな行事である。
ちなみにひと昔前まで、竹取神事には地元の漁師しか参加できなかったそうだ。
続いて11時30分ごろから祭事のハイライト「御田植の神事」がスタート。
謡(うた)や鼓や笛太鼓が奏でるお囃子に乗って、当番区の奉仕役人(やくびと)たちが古式ゆかしく一列に並んで田圃に早苗を植えていく。
途中まで来たところで一旦停止。
それまで簓(ささら)という楽器を担当していた2人が、御料田の真ん中で「刺鳥差(さいどりさし)」という舞踊を舞う。
その間、一同は若布(わかめ)を肴に一時の宴を張り、刺鳥差が終わると田植え再開。
最後は一同が列を為し、御料田から踊りながら伊雑宮へ向かう「踊り込み」で締めくくる。
この踊り込み、伊雑宮一の鳥居まで僅か200メートルほどの距離を、たっぷり2時間かけて練り歩くそうだ。