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ビールと共に出てきた突出しは、塩辛。

これが、なかなかイケる味。

そこでビールから日本酒にスイッチしようと、件の小母さんに尋ねてみた。

「日本酒のメニューはありますか?」

「燗ですか? 冷ですか?」

予期しない返事に面食らい、思わず「ひ、冷で」と答えてしまった。

改めて品書きを見ると、日本酒は「剣菱」しか置いていない。

つまり「日本酒の品書きは無い」が故に、途中で有るべき「日本酒の品書きはありません」という一言が割愛され、短絡的に「燗か冷か」という問いへ至ったものと推測される。

こうした、客を小馬鹿にしたような接客態度を取られると憤慨する向きが圧倒的に多い…それが今の世の中だろう。

その気持ちは痛いほど分かるし、道理で店内に客の姿が疎らだったわけだ。

ただ、品書きに日本酒が「剣菱」しかないという事実を前にして、この店の姿勢が少し理解できた気もする。

「剣菱」は創業五百年を超える灘の名門酒蔵。

赤穂浪士が吉良邸討ち入りの前、蕎麦屋で出陣酒として喉に流し込んだのが剣菱だったとか。

坂本龍馬の脱藩を直談判に来た下戸の勝海舟に、山内容堂公が「この大盃の酒を飲み干したら認めよう」と突き付けたのが剣菱だったとか。

こうした歴史的な逸話に事欠かない銘酒、それが剣菱だ。


[旅行日:2013年5月21日]